遅刻が多い社員などを解雇(クビ)にできる?
遅刻した場合、どんな処分になる?
こんな疑問を解決していきます。
遅刻が理由で解雇(クビ)することも可能(ただし法律上の要件を満たす必要あり)
遅刻が多い社員に対して、法律上の要件を満たせば解雇処分できる可能性があります。
一方で、労働契約法においては以下のように規定されています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法第16条
日本の労働契約法により、簡単に解雇をすることはできません。
裁判で解雇が認められた事例と認められなかった事例をまとめるとこんな感じです。
解雇(クビ) | 認められた事例 |
概要 | Aは通勤途上の負傷や私傷病等を理由に契約の約5年5か月のうち約2年4か月を欠勤した。また最後の長期欠勤の前2年間の出社日数のうち約4割が遅刻であったなど遅刻を常習的に繰り返していた。 |
判決の内容 | Aさんは4回の長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多く、また出勤しても遅刻や離席が多く、出勤時の勤務実績についても、担当作業を指示どおりに遂行できず他の従業員が肩代わりをしたり、後始末のため時間を割くなど劣悪なものだったため、普通解雇事由に該当するとした。 |
ポイント | 長期かつ複数回の欠勤の事実や勤務実績も劣悪であったことに加え、遅刻が多いことも理由に、解雇の有効性を認められた。 遅刻が多いことは、解雇するにあたり客観的な合理的な理由を基礎づけるひとつの事情になり得ることが判明した。 |
解雇(クビ) | 認められなかった事例 |
概要 | Bは2週間の間に2度寝過ごしたため、午前6時からのラジオニュースを放送できず、放送が10分間ないし5分間中断されることとなった。 そこで、就業規則15条3項の「その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」との普通解雇事由を適用してBを普通解雇した。 |
判決の内容 | 放送事故については対外的信用を著しく失墜するものであるが、しかし他面、本件事故はXの過失によるもので悪意ないし故意によるものでないこと、先に起きてBを起こすことになっていた担当者が2回とも寝過ごしており、事故発生につきBのみを責めるのは酷であること、放送の空白時間はさほど長時間とはいえない また会社は早朝ニュース放送の万全を期すべき措置を講じていないこと、Bはこれまで放送事故歴がなく平素の勤務成績も悪くないこと、担当者はけん責処分を受けたにすぎないことなどにより、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。 |
ポイント | 遅刻が悪意ないし故意によるものではないこと 遅刻後の対応が適切であること(すぐに業務を開始するべく努力したこと、謝罪したこと等) 遅刻の時間が短いこと 同じく遅刻した他の従業員への処分と不均衡であること 処分歴が無いこと、平素の勤務成績が悪くないこと |
遅刻が多い社員に対しての対応(解雇(クビ)以外の措置も含む)
遅刻が多い社員に対して、はじめから解雇(クビ)にすることはできません。段階を踏んで対応していきましょう。
➀遅刻の原因を確認する
遅刻理由がやむを得ない場合もありますので注意が必要です。
- 家族が病気
- 本人の体調不良
- 上司からのパワハラ
- 職場でのいじめ
病気や家庭の事情で遅刻が多いのであれば、残業をさせないようにして業務改善をしたり、医師への受診をすすめたり、休職を命じたりするなどの対処を検討する必要があります。
また職場環境の悪さなどが遅刻の原因であれば、社内調査を行って職場環境を整える必要があります。
一方で遅刻の原因を確認して、ただ意欲が低い、規範意識が弱いなど、本人に改善を求めるべき場合であれば、次のような手順を踏むことになります。
②注意・指導の実施
本人に帰責事由があって遅刻をしている場合、出退勤記録を基に注意・指導を行います。
はじめの注意・指導は口頭で行い、それでも改善しない場合には、書面で改善を求める業務指示を行うのが良いでしょう。
これは会社が社員を解雇する場合に、当該社員に対して再三注意・指導したが改善が見られなかったということを証明する証拠にするためでもあります。
また、書面で注意・指導などを行う際、今後も改善されず遅刻がくり返される場合には懲戒処分となる可能性があることを明記しておくようにしましょう。
③異動・降格処分を下す
遅刻が原因で仕事に影響がある場合、移動や降格処分などの対処もできます。
就業規則の規定に従って、懲戒処分として降格を命じる場合もありますが、処分の不当性を争われるリスクもあるので注意が必要です。
余程の事情がない限り、人事権を行使して異動や降格処分などの対応を行った方が無難でしょう。
④解雇(クビ)まではいかない懲戒処分
口頭や書面での指導でも遅刻が改善されずくり返すという場合、懲戒処分を行うことになります。
懲戒処分を行う場合、就業規則の懲戒規定に該当している必要がありますので、どの事由に該当するのかを明確にしましょう。
遅刻の程度にもよりますが、初めての懲戒処分であれば、
- 戒告(過失や失態、非行などを注意し、将来を戒めるために文書または口頭で行うもの)
- けん責(従業員から始末書を提出させて、厳重注意する)
といった軽い処分を行うことになります。
それでも遅刻が改善されない場合にはさらに重い、
- 減給(一定の期間において一定の割合で賃金を減額する)
- 降格(労働者の役職や職位、職能資格を引き下げる処分 )
などの処分を行うことになります。
つまり遅刻する側も、解雇される前にも戒告、けん責、減給、降格などの処分があることを知っておきましょう。
⑤退職勧奨
注意・指導・懲戒処分を行っても遅刻が改善されない場合、退職勧奨も視野に入れましょう。
双方で退職に合意することができれば、退職合意書を交わします。
それでも折り合いがつかなければ、解雇を検討することになります。
⑥解雇
これまでの対応(注意・指導・懲戒処分・退職勧奨)でも遅刻が改善されない場合、解雇を検討します。
解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、その内容は就業規則によって定められますが、遅刻であれば懲戒解雇ではなく普通解雇が行われることが一般的です。(※懲戒解雇の場合、就業規則上の懲戒解雇事由該当性の判断や懲戒解雇の相当性の判断が厳しく行われ、無効と判断される可能性が高いため)
遅刻を理由に解雇(クビ)する場合、裁判などになる可能性があります。
まずは会社の顧問弁護士などに相談するようにしてください。
また遅刻する側も、遅刻が理由で解雇(クビ)される可能性があるということを覚えておきましょう。
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